■幻の日本の中世芸能がホノルルで上演
『大田楽』は、和泉流狂言師 野村萬(のむら まん)さんの長男で、同じく狂言師で総合芸術家の野村万之丞(まんのじょう)さんが現代に復活させた芸能です。万之丞さんは、惜しくも2004年にご病気により若くして他界されましたが、野村萬さんが要となりながらその遺志を受け継ぎ、文化交流や地域活性のために、日本各地で市民参加の形で行い、その輪を広げています。
そして、その輪は日本にとどまることなく、世界へと広がり始め、2009年、野村萬さんが文化庁の助成を得て、第15回ホノルル・フェスティバルでの『大田楽』の上演が実現されることになりました。
『大田楽』は、中世(1000年~1600年頃間)の日本で大流行した芸能「田楽」が元になっています。「田楽」は、もともと庶民の田植え仕事の際の労働歌や躍りから始まり、五穀豊穣を願って行われた神事(神様を祀るための儀式)へと発展した民間芸能です。鎌倉時代から室町時代にかけては、日本各地の公家や武士、庶民にまで広く好まれ流行し、その後消えてしまったという幻の芸能なのです。
万之丞(まんのじょう)さんは、その失われた芸能「田楽」を民俗芸能研究者や国文学者の方の協力とわずかに残る文献や絵巻物を参考にしながら、各地の伝統芸能や音楽、更には西洋的な要素を取り入れ、色とりどりの華やかな衣装とリズミカルな音楽や動きなど、現代に合った新たな芸能へと作り上げたのです。
『天守物語』は、女優 松坂慶子さんがライフワークとされている朗読芝居で、城の天守閣に住む魔性の姫と人間界の若武者の恋が妖しくも美しく描かれた物語です。原作は、明治後期から昭和初期にかけて活躍した泉鏡花(いずみ きょうか)の作品で、彼の数ある作品の中でも最高傑作と言われています。
2001年のNHKのあるドラマをきっかけに、その時の総合文化監修だった野村万之丞さんと松坂さんが出会い、『天守物語』を能舞台で上演。そして、万之丞さん没後に『大田楽』に出演するようになり、『大田楽』と『天守物語』の二作品が一緒に上演されるようになりました。
■本番での成功を目指して皆の気持ちがひとつに
第15回 ホノルル・フェスティバルを数日後にひかえた頃、『大田楽』に参加するホノルルの躍り手の人達の練習が行われました。
この日は、日本からいらっしゃった市民参加指導の菅原香織先生と赤坂久美さんによる指導が行われ、ホノルルの躍り手メンバーは、下は7歳から60歳代の方まで幅広い年齢層の方が参加していました。
躍りの中には、ハワイならではの演出が考えられていて、掛け声に「カメハメハ」というハワイのかつての王様の名前が入れられていたり、更に、「フムフムヌクヌクアプアア」というハワイの固有種の魚の名前をどうにか入れたいと思案中のようでした。そうやって、練習をしながら菅原先生の中にある演出のアイデアが付け加えられ、それにすぐさま応えるように、みんな何度も何度も繰り返し練習していました。休憩中にもお互いにアドバイスをし合いながら練習する姿が見られ、限られた時間の中で楽しくも真剣に練習する姿がそこにありました。
日系2世のある少女は、「日本は自分のルーツでありながら、知らないことはたくさんあります。今回の参加は、日本のことを知るとても良いチャンスになったと思います。これからも、もっとこういう本物の日本の文化に触れられる機会があるとうれしいです。」と額に汗をうかべながら話してくれました。
また、 この日の練習には、『天守物語』を演じる女優 松坂慶子さんもいらっしゃっていて、みんな集まっての練習がこの日が初めてだったとは思えないほど、和気あいあいとした雰囲気の中で、本番での成功を目指して皆の気持ちがひとつになっていました。
■文化交流に言葉はいらない、本物は世界の人を魅了する
3月14日(土)の午後、ハワイ・コンベンション・センターのお祭り広場の大ステージには、今か今かと期待に胸膨らませた沢山の人がいました。司会者の紹介と共に、軽やかな和笛と太鼓の音が鳴り響き、松坂慶子さんが本を片手に童謡「とおりゃんせ」を歌いながらゆっくりと登場。ハワイの青い空のようなブルーの着物を羽織りステージに現れると、会場から歓声があがりました。その後、狂言師 野村万蔵さんが登場し、『天守物語』のあらすじを狂言のようなゆっくりとした口調で語り、朗読芝居へと入っていったのでした。
そして、『天守物語』が終わり、ステージの明かりが落ちると、どこからともなく、観客の皆さんの間を通って 『大田楽』の躍り手 田楽法師達が登場。会場はざわめき、観客の皆さんは何が起こったのかと、きょろきょろ見渡していました。
全員がステージに上がり終わると、一段と太鼓の音が大きくなり、いよいよ日本とホノルルの躍り手が一緒になってのステージの始まりです。今回ホノルルからは25名が躍りに参加。その躍りは躍動感に溢れ、目の前で色とりどりの衣装がくるくると回っていきます。
日本からの躍り手 田楽法師の皆さんは、すでに日本各地で行われている『大田楽』で躍っている皆さんで、石川県の山代温泉から参加された甘池さんは、「ホノルルの躍り手の皆さんが楽しんで躍っていらしたので、私も楽しめました。客席のカメラの数がすごくて、興味津々にご覧になっていたのがわかりました。」とおっしゃっていました。
『天守物語』も『大田楽』も本来はもっと長い作品で、ホノルル・フェスティバルでの公演は、両者30分ずつの特別短縮版での公演となりましたが、大変見ごたえがあるものでした。観客の皆さんの中には、日本語がわからない方も多くいらっしゃいましたが、まばたきをするのが惜しいといわんばかりに、最初から最後までじっと見入っていました。
※『大田楽』は日本各地で行われています。
伊東大田楽
http://www1.ocn.ne.jp/~dengaku/
石川県 山代大田楽
http://www.yamashiro-spa.or.jp/daidengaku/
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